Lamp harajuku

#005 SINA SUIEN

2016年8月、新潟県にある西明寺(さいみょうじ)でのファッションショーを終えたばかりのSINA SUIEN。デザイナーである有本ゆみこさんに、Lamp harajukuクリエイティブ・ディレクターの矢野悦子がお話を伺いました。

*有本さんの子供の頃のお話を聞かせてください。

− 小さな頃のことはあまり思い出せなくて、母親に聞きました。
2番目だったからか、あまり手のかからない子でしたが、とても負けず嫌いで、意志の強い子供だったそうです。5歳くらいのとき、母親の友人の子供 (中学生くらい) が、美少女のイラストを自分より凄く上手に描いているのを見て、悔しくて大泣きしたことがあったそうです。とにかく絵が大好きで、よく描いていました。

兄の影響もあり、漫画もよく読んでいました。家には藤子不二雄や水木しげるの漫画がありました。私は当時「なかよし」を読んでいて、中学に入ると「別冊マーガレット」を読むようになりました。その頃好きだった漫画家は、いくえみ綾さんや永田正実さんです。

*負けず嫌いだったという子供時代。その後の学生生活はどの様に過ごしたのでしょうか。

− 中学校に入ると、肌の白さが周りから浮いているのがすごく嫌で、日焼けをするために(あと痩せるために)陸上部に入りました。中距離や砲丸投げをしましたが、練習が本当にきつくて、最終的に美術部に入りました。

*陸上部だったのですね。色白で細くて小さい今の有本さんからは想像もつきません!

− その頃は活発で、クラスの中でも少し変わったユニークな子でした。
そうだ!今思い出したんですけど、わたしシノラー(※)だったんです。
※シノラーとは、篠原ともえのファンや篠原ともえみたいなファッションのこと

*わー!聞いたことがあった気がしますが、それは面白い!!

− とにかく目立ちたくて、特別な子になりたいという願望が強くて。きっと小さな頃から見ていた漫画や、アニメの影響が大きかったのだと思います。高校生になると、周りの意見を気にするようになりました。漫画や子供っぽい趣味が恥ずかしく思えて隠していました。それと引き換えにファッションや音楽への関心が強まりました。学校は共学で、周りは彼氏ができたりしていましたが、私は現実の恋愛には奥手でした。漫画やアニメの世界に惹き込まれて、いつも妄想ばかりしていました。

大学ではSINA SUIENの基盤となるようなことを教わりました。
昔から絵が大好きだったのと、洋服にも関心があったので、実家から通える京都造形芸術大学に入りました。
入学後すぐに刺繍と出逢い没頭していったのですが、私が刺繍に興味を示したのも、絵を描くことと刺繍という行為が似ていたからかもしれません。刺繍は忍耐力や持久力が必要ですが、もしかしたら陸上部での経験が役に立っているかもしれません。

*社会人になってからの有本さんは、その意志の強さから自らの道を切り開いていきます。

− 卒業後は東京のあるブランドに就職しました。芸術的なビジュアルや、普通じゃないコレクションを発表していて、とても大好きなブランドでした。ラッキーなことに創作に関わる部署に配属していただいたのですが、働くうちに現実とのギャップを感じるようになりました。今となっては会社として大切な戦略だと理解出来るのですが、当時は効率を重視する体制や、こうしたら売れやすいとか、ビジネス主義の環境にとても違和感を感じていました。ファッション業界だけの話ではないですが、広告や雑誌などで見ているような、華やかなイメージは架空のものだったのだと、とてもショックを受けました。
私は近道したいわけでもないし、このままだと言われたようにやらなければいけないんじゃないかと思い、結局1年にも満たないうちに退職しました。もっと自由に自分のやりたいことをやったほうが自分らしいと思ったんです。それから本格的にものを作り始めました

*私が最初にsinaとしてのコレクションを拝見したのは、2009年に発表された有本さん自身がモデルになっているイメージファイルでした。

− モデルさんにお願いしていたのですが、当日ドタキャンされて・・。
仕方がないので私がやりました。

*偶然の結果かもしれませんが、ご自身がモデルになり、自分で縫って、刺繍したというのが、ものすごく良かったです。有本さんそのものを感じで、もう心がどっきゅーん!と持ってかれました。ファイルを届けてもらったその日に連絡をとったことを憶えています!

− 大学時代に大好きなアーティストさんからLamp harajukuを教えてもらったんです。初めてお店に行ったときから、私にとってLamp harajukuは特別な存在でした。会社員時代は癒しを求めて通っていましたが、自分で刺繍した鞄をスタッフさんに褒めていただき、その日にいただいたのが矢野さんの名刺でした。一か八かでイメージファイルを送ったらすぐにお電話をいただいて、お取扱いと展示が決まりました。当時はそれを矢野さんの優しさだと思っていて、とても不思議でなりませんでした。

*当初からこういうブランドを作りたいとか、そういった目標はあったのでしょうか?

− 全く考えていなくて、いつも一か八か出たとこ勝負でした。
でも最近は場の大きさに関係なく、発表するからには納得のいくように全力で行うと決めています。それが製作者としての礼儀だと思うからです。

*同じように物作りしている同年代の方とは、コミュニケーションはとっていましたか?私の勝手な想像ですが、有本さん自身はとても負けず嫌いですし、自分の世界観が強くあるので、同世代とはあまりつるんだりしなさそうなイメージです。

− あまりこういうことは言わない方が良いと思うんですが・・
上京したての当時は、自分よりも才能があって、一緒にいて価値のある人とだけ交流したいと思っていました。今ではそれだけが大切なことではないとわかっていますが、相変わらず「友達」という存在はいません。

*自分自身の向上心に刺激をくれる人は、とても大切な存在だと思います。

− 私は年上の男性にアドバイスを頂くことが多かったのですが、唯一聞く耳を持てたのが、pottoのデザイナー山本哲也さんでした。
最初に商品をおいてもらったのもPOTTO SHOP がまだ恵比寿にあった頃でした。
納品したバックが壊れてしまった時は「取手の部分は二重で縫う」とか、「ポッケは返し縫いをする」とか「自分でパターンをひいて刺繍する」とか、すごく基本的なことを教えてもらいました。
でもパターンの計算とか大嫌いで、今でも苦手ですけど・・

*山本さんは音楽や面白いパフォーマンスもしていて、どこにでもいるようなファッションデザイナーではないですよね。前回のショーでコラボレーションしたアーティストの狩野哲郎さんや、今回西明寺のショーでコラボレーションした芸術家の藤本由紀夫さんなど、有本さん自身もいつも独特な提案をされていると思います。

− 藤本さんはもともと卒業した大学の先生をされていたのですが、その前から知っていました。初めて藤本さんの展示を観たときに「何これ?訳わかんない!!凄くかっこいい!ストイック!真似したい!」と衝撃を受けました。「悔しい」という感情すら沸かないほど、圧倒的な存在でした。
その後、2010年にLamp harajuku Galleryで発表した「あまいおんな」の巡回展として行った、「あまいおんなin京都」の企画で、藤本さんにトークショーのゲストとして参加いただきました。

*2015年、sinaからSINA SUIENにブランド名を変えましたが、それはどういうタイミングだったのですか?

− 名前を変えたのは独り立ちするとか、覚悟を決めたとか、そういったところです。でもあまり深い意味はありません、私は自分の活動を分析もしないし、その時にそう思ったからそうした、それだけなんです。ただ今まで以上に洋服を真剣に作ろうと思ったきっかけは、スタイリストの高山エリさんの影響です。ダメ出しがすごくて、今まで着た後のことをしっかり伝えてくれる人がいなかったので、とても刺激を受けました。

*体が感じるままに動いているということですね。それはとても大事ですよね。未来がある程度決まっていないと不安になる人もいますが、未来は今の積み重ねですし、その先に自分のしたかったことが出来ていると思います。

− そうです。見えているものに向かうのではなく、自分の想像を超えたいんです。

*最近では2016 AWコレクションのタイトルにもなりましたが、SINA SUIENにとって「戦う」というテーマは常にあるように思います。

− わたしは小さな頃から戦闘ものが好きで、セーラームーンや魔法騎士レイアースなど、女の子の戦う姿をかっこいいと思っていて。
sinaをスタートした頃は、”他人”や”外”に対して挑んだ戦いでしたが、2016AWのコレクションは”自分との戦い”がテーマでした。

20代の頃は自意識過剰で外見とかを気にしていましたし、自分ではない綺麗な女の子になりたいと思っていました。朝起きたら信じられないくらい美人になっていたらいいな!なんて思っていましたし。でも今は、自分の生き方の上に今があるということを、とても幸せなことだと感じています。もっとそれぞれの個性を自由に認め合える世界が広がれば、楽しい世の中になると思います。

*西明寺で行われたショーの前には、お寺で修行もされていましたね。

− はい。数日間の坐禅滞在では「嫌いな人の幸福を願う」という時間が組み込まれていて、聞いたときはびっくりしたのを憶えています。
私は苦手な人が多いので「願う時間が長くなってしまうな」と心配してしまいました。

*その西明寺にて8月にファッションショーを開催されましたが、どのような経緯で決まったのですか?

− 知人を介して、奉納の様子が映し出された映像を見たのがきっかけです。
お寺の雰囲気、お坊さんが鐘をならしているところが、ものすごくかっこ良くて印象に残ったんです。一目惚れでした。
それからしばらくして、2015年の8月に宿坊でもある西明寺に1週間ほど坐禅滞在させてもらいました。
行く前からここで来年の8月に絶対にショーをやる!と決めていたんです。
住職にも本気だということを知ってもらうために、何度も「やらせてください」と言い続けました。

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今回、東京から有本さんやカメラマン、ヘアメイク、モデルの皆さんと “SINA SUIEN御一行バス”に乗って、私も一観客として同行させてもらいました。
「はじめまして」の方が多くて緊張しましたが、有本さんが届けたい想いを一泊二日という時間の中、坐禅などを通し、お寺の空気感を皆さんと一緒に体験し、それを共有できたことは、本当に貴重な経験で大事にしていきたいと思いました。

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有本ゆみこ/Yumiko Arimoto
刺繍アーティスト、SINA SUIENデザイナー
1986年奈良生まれ
2008年京都造形芸術大学 空間演出デザイン学科
ファッションデザインコース卒業
展覧会、コレクションの発表、ワークショップ、マンガ執筆などで活動中
http://sina1986.com

聞き手: 矢野 悦子 / Etsuko Yano
https://www.instagram.com/etsuko.yano/

写真: Tohru Yuasa
www.yuasatohru.com

編集: 藤井 星子